高畑勲監督作品 母をたずねて三千里について

こんにちは。ずっと観たかった作品でした。amazonプライムビデオで観ています。今日観始めてまだ2話までしか観ていないのですが、一応感想を書いておきます。1話「いかないでおかあさん」は「アルプスの少女ハイジ」(1974)と同じく主人公の離別から始まります。この作品とスタッフもほとんど同じなのでどうしてもハイジと比べてしまいますが、違うところはスタッフがハイジから得た様々なノウハウを持っていることです。とにかく演出が凄いのですが、1話とは思えないくらいの、シリーズとして中盤に差し掛かったくらいの安定した演出を1話から出してくる感じがあります。美術もイタリアの高低差のある立体的な町を魅力的に描いています。やはりカメラワークが完全に映画的というか既にTVアニメではないです。港で母親と別れて、他の人々が移動していく中カメラが主人公のマルコを捉え続けるシーンはフレームの外の世界を感じさせるようなシーンです。2話「ジェノバの少年マルコ」はさらにマルコの住むジェノバの立体的な町を掘り下げて描きます。ここら辺で引っ掛かったのは、猿のアメディオの存在です。これは推測ですが、アメディオはアニメオリジナルのキャラクターなので宮崎駿が活劇をしたいが出来ない、というジレンマから生み出したのがアメディオだと思います。だからなのかアメディオだけがこの世界のリアリティから外れていて、少し違和感があります。それとマルコの行動がどう観ても女の子にしか見えないことがあります。しかしこれは恐らくこの後に変わっていくことだと思います。あと主題歌が哀愁があって格好良いです。

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6話まで観ました。この作品が扱っているイタリアの詳しい時代背景が調べてみてもよくわかりませんでしたが、大体19世紀末のイタリア統一運動の後のイタリアで、労働に対するストライキがあったり、そもそもジェノバの労働賃金に対する不満から母親のアンナ・ロッシはアルゼンチンに出稼ぎに行っています。

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8話の「ゆかいなペッピーノ一座」ではマルコが酔っ払った勢いで、父親にようやく男らしいことを言いました。制作陣も恐らくマルコが女の子みたいに見えているのではないか、という危惧があり、きちんと台詞で男であることを強調しています。それからフィオリーナが可愛いです。声優が「未来少年コナン」(1978)のラナと同じ信澤三惠子です。当たり前ではないことなので書いておくと、背景が綺麗です。勿論ロケーション・ハンティングもそうですがそれはやはりTVシリーズを沢山作ったスタッフのノウハウから来ているものが大きいです。

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9話の「ごめんなさいおとうさん」はマルコが初めて挫折する話です。挫折というか、現実を知るという方が正しいのですが、「アルプスの少女ハイジ」(1974)のハイジの挫折と比較すると、このマルコの挫折の場合は、大状況にある小さな出来事として扱われています。何故そうなるのかというとハイジの場合、アルムの山小屋という世間から隔離された環境なので、物語がハイジの心の動きだけに集中するのですが、やはりそれを踏まえた「母をたずねて三千里」はそれにプラス当時のイタリアの就職難や不景気などの状況が反映されています。マルコが元居た昔の家に母親の居る家族が引っ越ししてきてそれを目撃する、という演出とかは流石だと思います。

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12話の「ひこう船のとぶ日」、飛行船が飛ぶことで集まる観客を狙ってマルコは親友のエミリオと共にアイスクリームを作ります。このエミリオが良い奴で、掛け値なしにマルコに優しくしてくれます。

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15話の「すすめフォルゴーレ号」で遂にマルコはブラジル行きの貨物船経由でアルゼンチンに行けることになります。ずっと行くことを許さなかった父親が行くことを認めるシーンはそれまで15話分の問題が解決するカタルシスがありました。マルコはやっぱり少し女の子っぽいところがあります。猿のアメディオがマルコと何度別れても帰ってくるところは少し面白いです。

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19話の「かがやく南十字星」まで観ました。18話の「リオの移民船」で世話になったフォルゴーレ号の船員と別れるマルコですが、別れる際に一瞬だけマルコが寂しそうな顔をします。こういう演出をアニメーションで見ると感動します。19話は「アルプスの少女ハイジ」(1974)でもあった子どもが現実に直面する話です。

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22話の「かあさんのいる街」は明らかにロベール・ブレッソンの「スリ」(1959)を意識していると思われます。新聞紙で隠して行うのもそうですが換金所のような場所も恐らくですが映画から絵を起こしている気がします。そしてブエノスアイレスに来てから絵がとても乗っています。久しぶりにアニメを観たからかもしれませんが本当に絵画みたいな美しいショットがあって凄いなと思いました。そして非常に暗い終わり方も良かったです。23話の「もうひとりのおかあさん」は出てくるシスターが良いです。年齢かもしれませんがシスターとマルコの関係がとても魅力的に感じました。お姉さんと少年という俗に言うおねショタですがこれはある程度年齢が行くと憧れに近い感情と少しの懐かしさから良く思えます。高畑勲TVシリーズを数多く手掛けていますが本当にやりたいことを全てやっているなと思います。