楳図かずお 神の左手悪魔の右手について

こんにちは。「洗礼」(1974)が余りにも面白かったので続けて読みました。楳図かずおの歴史でいうと「わたしは真悟」(1982)の後に作られたのがこの「神の左手悪魔の右手」(1986)です。文庫本の1巻を読み終わりました。まずタイトルが格好良いです。そして1話から全く先が想像出来ない展開とまるでフェリーニの映画のように夢でも現実でもどうでも良いやという開き直りが読んでいて気持ち良いです。絵は少し崩れています。推測ですがこの頃は相当無理して描いていたのではないかと思います。でもその崩れた絵が逆に夢の不安定さを表している気もします。つげ義春の「必殺するめ固め」(1979)のようにあえてパースを崩して描いていたのかもしれません。女の子の身体からモノが出てくるというのは出産を想起させます。楳図かずおは本当に読んでいて思わず声が出る程に凄いです。まだ1巻しか読んでいないのでこの先どうなるか分かりませんがまさか口裂け女の要素が出てくるとは思いませんでした。これは子どもの頃に読んでいたら間違いなく悪夢を見たことでしょう。どうでも良いことですが最近本を読む習慣が付いてきたのでこれに託つけて小説を読もうかなと思います。

20240429

2巻を読み終わりました。絵は相当崩れています。しかし映画的なカメラワークのコマ割りは良いです。未だどんな結末になるのかタイトルの意味すらも明確には分かりません。「消えた消しゴム」のストーリーテリングの奇妙さや強引さはただ思い付きで描いただけかもしれませんが何度も書いているように楳図かずおの謎の確信で説得力がある気がしてしまいます。「女王蜘蛛の舌」の終盤で主人公の想が台詞で言っているようにやはりこれは全てが夢だという前提で話が進んでいるようです。しかしもしそうだとしてもこの発想は流石だとしか言いようがありません。時々噴出する暴力性が狂気めいています。

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4巻まで読み終わりました。今まで読んだ楳図かずおの作品の中で最もとっ散らかった作品でした。3巻から急に絵が上手くなりました。上手くなったというか元の楳図かずおのタッチに戻ったという方が正しいかもしれません。「黒い絵本」の最終話に想が家を捻じ曲げる力を使うのですがその時に顔が怪物のようになり手が動物のようになります。これ宮崎駿の「崖の上のポニョ」(2008)でポニョが魔法を使う時にそっくりです。4巻はほとんど流し読みしてしまいました。正直退屈でした。スターになる話は「おろち」(1969)でもあったものの焼き直しですしとにかく残酷描写をするためだけに描いているような印象を受けました。楳図かずおの凄さは一見行き当たりばったりで描いているように見えて大きな運命が渦巻いている感覚があるところなのですが「神の左手悪魔の右手」は本当に行き当たりばったりで描いています。展開が本当に意味が分かりません。しかしこれは仕方ないことだとも思います。既に傑作を何本描いているか分からない程の天才でもやはり体力が無くなってしまうのだと思います。