諸星大二郎 グリムのような物語 トュルーデおばさんについて

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こんにちは。諸星大二郎面白いです。今まで何故読まなかったのか、多分絵の雰囲気が好みと合わなかったからなのですが、読んでいる内に慣れてきます。絵は下手な訳ではなく、恐らく影響を受けている作品から来ている描き方なのでしょう。こういうラフスケッチのような絵の描き方は宮崎駿の「風の谷のナウシカ」の漫画版にも似ています。少し調べれば出てきますが、宮崎駿諸星大二郎の影響を受けていることを公言しているので間違いないと思います。グリム童話を新たな解釈で再構成している本作は、メジャーな「赤ずきん」「ラプンツェル」からマイナーな「夏の庭と冬の庭」「トュルーデおばさん」など全8話収録されています。童話はこども向けのものなので、時代により改変されていきます。中には残酷な結末のものも少なくありません。僕も幼い時にアンデルセンの「赤い靴」を読んでとても怖かった覚えがあります。「Gの日記」はラストのタイトルの伏線の回収が見事でした。「赤ずきん」はミステリーの常道ですが、初めに怪しい人物を出してミスリードさせる展開で結末に驚きました。諸星大二郎について調べていると沢山他の作家の名前が出てきてます。凄く良いです。スーザン・ピットの「アスパラガス」やアンリ・ミショーの「幻想旅行記」など知らなかった作品を知ることが出来て嬉しいです。 

僕が一番気になった話は「夏の庭と冬の庭」という聞き慣れない童話です。調べると「美女と野獣」の原型になった話みたいです。僕もまだ明確な答えを得ていないのですが、とりあえず書きます。まずこの話はラストの落ちから考えると、中世の話に見せかけた、あるいはその夢をみている現代の娘の話になっています。それは分かるのですが、奇妙なのがこの落ちが2回出てくることです。普通このような場合は最後に驚かすために1回しか見せないものですが、この話は何故か2回出てきます。必ず意味があると思います。作中の台詞から、恋の魔法が解けることで獣は王子になり、そして現代の若者に変わります。変わり方も着ぐるみを脱ぐような変わり方なのも気になります。今思いつくのは恋愛における気持ちの変遷を表したのではないか、というぐらいです。つまり初めは好きになって一度嫌いになり、また好きになってとうとう恋が終わる、ということです。

2021 1117
もうひとつ買っていた「栞と紙魚子と青い馬」もとても良いです。ストーリーの構成が伊藤潤二と似ていて、伊藤潤二が相当影響を受けたことがわかりました。「瓜子姫の夜、シンデレラの朝」も面白いです。今回読んでみて諸星大二郎の凄さがやっと分かりました。バックグラウンドに膨大な知識があるからこそ、ふざけることができます。あと原作のある話を再解釈して作るのが好きなようです。デビュー50周年記念のインタビューでこの「トュルーデおばさん」が自信作と何度も発言していたのを後になって知って良い買いものをしたな、と思いました。