マイケル・デュドク・ドュ・ヴィット監督作品 レッドタートル ある島の物語について

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こんにちは。これも随分前に観た映画でした。内容はすっかり忘れていましたが、間違いなく影響を受けている作品です。今回はインターネットで感想を読まずに書きたいと思います。マイケル・デュドク・ドュ・ヴィット監督は「岸辺のふたり」を観たことがあります。今作にも頻繁にでてくる夢のイメージや、長い影、引きのショットなどが特徴的です。そして今作には高畑勲がアーティスティックプロデューサーとして参加していて、随所にその片鱗がみえます。空を飛ぶ表現など「かぐや姫の物語」と類似するシーンが幾つもありました。サイレント映画なので、意識が自然と映像に集中します。映像はとても綺麗です。フル3Dですが、丁寧に機械的な映像にならないように作られている感じがしました。本当にこの作品は映像をちゃんと見てほしいです。ストーリーは無人島に漂流した男が、赤い亀を助けた、というか助けようとした(初めは船を壊され敵対していたが、後で魚を持っていっている)ことで、その亀が女性に変わり、子を持ち男は幸せに死んでいく話です。こう書くと突拍子もない話ですが、映像でみるときちんと理解できます。まず亀を助けることから連想されるのは浦島太郎です。ここからは僕の解釈ですが、この話ははじめから全て男の夢だったという話だと思います。島に流れ着いてから男はまず竹林から船を作ろうと試みます。しかし、何故か船は不自然に壊れます。後に赤い亀の仕業だと分かりますが、この時点では自然現象のように描かれます。何度も失敗し失意の中で男は夢を見ます。それは海に架かる橋を走り、そして空を飛ぶ夢です。この映画の背景は基本空と海と地平線です。赤い亀が女性に変わり、殻をでて初めて男と対面するシーン。モノトーンの夜の世界で空と海と地平線しかない中にいる二人はアダムとイブのようでもあります。このシーンは滅茶苦茶良いです。ここからが夢の世界で本当の時間はラストのおじいさんになった男まで飛びます。恐らく男は余りの寂しさに夢の世界と本当の世界が区別できなくなったのだと思います。実は空を飛ぶ夢の後にもひとつ夢を見ていて、それは砂浜にオーケストラがいて近づくと消える、という夢です。夢は近づくと消える、というのは女性が殻から出てきて、まるで消えたかのような演出が入り、後に遠くの海に女性が裸で現れ、何故か男は自分の服を置き立ち去ります。このあとに二人の対面のシーンがあるのですが、つまり夢の世界に入り込んだということだと思います。他にも好きなシーンが沢山あります。二人のラブシーン、多分世界でみてもここまで引きのラブシーンは中々ないと思います。津波のシーン、破壊のカタルシスとその後の竹林の筍が生命の円環を表しているように思いました。この映画は興行的には失敗したようですが、こういう作品をひとつでもスタジオジブリが作ったという事実に意味があると思います。