こんにちは。この映画の感想を一言で言うとスピルバーグがフェリーニになったという感じです。黒沢清が語るフェリーニの言葉を引用すれば映画の見せ場だけを串団子状に羅列したような映画です。正直今年82歳の宮崎駿が作ったとは思えないほどアイデアが溢れていて鈴木敏夫がインタビューで語っていた若い宮崎アニメという発言の意図が分かりました。そして宮崎駿が今までの作品内で少しだけ見せていた幻想の世界を抽出して引き延ばしたような作品です。簡単に言えば少年の精神世界の話であるのですが物語を複雑にしているのは夢の世界でさらに夢の世界に行きそこからさらにまた夢の世界に行ったり編集もかなり切れ味が鋭く意地の悪い繋ぎ方をしていて途中から何が現実か判らなくなるところにあります。また主人公が物語の最初の世界から初めて異界に触れるのは恐らく青鷺が言葉を話して木刀で決闘する場面だと思われますがその前後の展開が良く分かりませんでした。ラストにまで引っ張った頭の傷も主人公が同級生から何かを言われて自分で付けた傷なのですがその意味も分かりませんでした。それから作画監督が本田雄になったからなのか構図が非常に映画的です。主人公の父親と新しい母親が玄関でキスしているシーンなど印象的でした。作画でもう一つ気になったのは登場人物がカメラの前に向かって歩いてくるシーンがかなりあるのですがその時に服の皺のアップまでカットが変わらないのです。ちょっと分かりにくい書き方をしましたがつまり実写映画では絶対出来ないことをしている訳です。ファンサービスとして随所にそれまでのジブリ映画のセルフパロディもありました。最後まで観て思ったのは現代の世界を否定しているということです。この映画は吉野源三郎の「君たちはどう生きるか」(1937)を原作にしているからなのか前作の「風立ちぬ」(2013)そっくりな導入の昭和の時代から物語が始まりますが実は昭和である必要は全く無いです。また夢の世界に出てくる建物はどれも昔の西欧風の建物です。これは邪推かもしれませんが高層ビルや現代の技術などを一切描きたくなかったのではないでしょうか。積木のシーンは宮崎駿世代が作ってしまった世界に対する若い世代への懺悔といかこんな世界になってしまったけれど後は頑張ってねというメッセージにも思えました。この映画は世界的にどういう評価を受けるのか気になります。僕としてはこの年齢でこんなに分からない映画を作ったことは評価に値することだと思います。余談ですが3年ぶりに映画館で映画を観ました。一人で映画を観るのに慣れてしまうと他人が居ることが凄く気になりました。割と深い時間に疲れて観たのですが全然眠くなかったということはやっぱり相当面白い映画だったのだと思います。登場人物に感情移入出来ないのと鳥にカリカチュアしたキャラクターや夢と現実が混ざる演出とかは高畑勲を意識したのでしょうか。序盤の現実のシーンなどはとても高畑勲っぽいような繋ぎ方でした。そして母親のエロティシズムもありました。母子の切り返しショットはどう観ても親子ではなく恋人とかに近いような感じでした。冒頭のお腹の赤ちゃんに手を当てるシーンは非常に官能的でした。でもこの映画は悪く言うなら手癖だけで作ったような作品でもあります。