黒澤明監督作品 乱について

こんにちは。先日黒澤明のドキュメンタリーを観て触発されて観ました。感想を書くのが難しい映画です。映画を批判することは容易いのですが、古い映画をただ批判しても無益です。なので批判するにしても後に活かせるような有意義な批判を心掛けます。結論からいえば僕はあまり好きではない映画でした。正確に言えば細かいところが気になった映画でした。冒頭の猪狩りのシーン、本当に細かいことですが猪が3頭横切るカットで編集点が見えます。というかこの辺りは黒澤明は無頓着なのか全体的に編集が上手くない気がします。遠景からアップになるシーンがいくつかありますが、それもレイアウトに違和感があります。レイアウトに対しても無頓着なのか左右とか上下が対称になっていないシーンが多くあって、まあこれは人の好みだと思いますが僕は気になりました。それから演技について男性陣の演技は特に気になるところはなかったのですが、女性の、狂阿弥(ピーター)は女性と見なしますが声が裏返るのを良しとするかは微妙なところです。演技に関しても黒澤明のボーダーラインが何処にあるのかよく分からないのですが、楓の方(原田美枝子)の豹変の場面は撮り直した方が良いと思いました。しかし演技に関して最近思うのは例えば洋画を僕は字幕でしか観れない訳で、その言語が持つ僅かな機微を読み取ることは出来ません。ここで引き合いに出すのは嫌らしいですが、沖浦啓之の「ももへの手紙」(2011)が海外で高い評価を得ていることとこの「乱」(1985)が海外で高い評価を得ていることの根本は同じなのかなと思います。両作品ともに僕はそんなに好みではないのですが、それは僕が日本人で日本語の細かい機微とかに引っ掛かるからなのかなと思います。それと合戦のシーンは同じ展開の繰り返しです。これに関しては好意的に劇中で歴史は繰り返す的な台詞があることからそれの表現だとも考えることが出来ますが、映画として重要な場面をカットしているところが良くないです。例えばラストの末の方(宮崎美子)、というかこの宮崎美子は顔がまともに映っていなかったので声で判断しましたが、の首が陣中に届くシーンは作り物で良いので首がちゃんと画面に映って欲しいのです。楓の方の血飛沫のシーンみたいな隠し方は良いのですが、欲を言えばタイトルバックの猪狩りでも猪を本当に矢で撃つ映像が見たかったです。またタイトルが「乱」なのでもっと性的な映像があっても良かったです。滅茶苦茶文句を書きましたが勿論良いところはあります。耄碌した老人が若い頃の罪に苛まれるのは話としてとても魅力的です。最近夢幻能について調べていたので多少強引ですが一文字秀虎(仲代達矢)が炎上する三の城から出てくるシーンは、幕の奥の冥界から現れて橋掛りを渡ってくるシテ(幽霊)そのものです。また冒頭に秀虎が悪夢を見たというシーンがあったり、中盤からの放浪するところでここはあの世かと言うところは好きです。秀虎が頻りに雲を見ているのは何故なのでしょう。何となく「乱」とかけて積乱雲とかに関係ある気がするのですが。これは僕の思い込みかもしれませんが宮崎駿黒澤明は凄く似ている気がします。一番の理由はこの映画を観ていて宮﨑駿の「もののけ姫」(1997)を思い出して尚且つ宮崎吾朗の「コクリコ坂から」(2011)の制作ドキュメンタリーを思い出したからです。特にそのドキュメンタリーで宮崎駿宮崎吾朗のアトリエに行ってそこのスタッフにダメ出しする場面は秀虎と宮崎駿が恐ろしくダブっています。黒澤明はやっぱりもう少し観直してみます。この後に作られた「夢」(1990)は僕は大好きですし、「用心棒」(1961)や「椿三十郎」(1962)などのエンターテイメントに振った活劇ものも凄く面白かった記憶があるのでもう少し観てみます。