成瀬巳喜男監督作品 女が階段を上る時について

こんにちは。黒沢清がオールタイム・ベストで挙げていたから観ました。高峰秀子の演技を初めて観ました。当然上手いのですがこれで「銀座化粧」(1951)の田中絹代の複雑な感情を動きで表現する演出は、やはり成瀬巳喜男の映画の特徴だと分かりました。この人は多分女性心理を用いて映画を作る人なのだと思います。女性心理は我々男から見れば複雑怪奇なものでそれを丹念に描写すればそれだけで映画がひとつ出来上がることが分かります。冒頭の主人公矢代圭子(高峰秀子)のモノローグ調のナレーションから分かるように、この映画は基本的に主人公圭子の主観に沿って物語が進みます。ベタですが普段毅然としている人間が崩れていくのは女性ならば特に魅力的です。昔の映画を観ていて思うのは出てくる登場人物たちが皆自然に振る舞っているように見えます。これはそういう演技なのか、違うのか確かめようがないのですがそれだけ普段から本音と建前を皆使い分けていて、演技をすることに慣れていたからかもしれません。終わり方が松岡錠司の「深夜食堂」(2014)の高岡早紀の話に似ていました。終盤の圭子の部屋に入れ代わり立ち代わり出入りする男たちは彼女自身が台詞で言っていたように男に一度身体を許してしまったことで堤防が決壊したことを表しています。僕は現代の恋愛ドラマを観ないのですが本当にこんな感じで撮影して演出してくれたら喜んで観ます。時代錯誤と呼ばれても良いので古風な、それもキャラクターとして古風な訳で無く本当に全体を古風な感じにして映画を誰が撮ってください。こうした映画の文脈が日本ではあまり現代に継承されていません。海外の映画を観ると面白いものはやっぱりヒッチコックとかポランスキーとかの影響をちゃんと感じます。