黒沢清監督作品 蜘蛛の瞳について

こんにちは。何故か観逃していました。「蛇の道」(1998)の方はどうやら2024年に日仏合同で黒沢清がリメイクするらしいのですが「蜘蛛の瞳」(1998)は初めて観ました。そしてやっぱり黒沢清凄いなと思いました。復讐シリーズは前年に「復讐 運命の訪問者」(1997)と「復讐 消えない傷痕」(1997)があってそちらではしっかりエンターテイメントとして作っている一方こちらは思い切り作家性に振り切った作風になっています。1997年という年は「CURE」(1997)も撮っていて恐らくもう物語の完成度を突き詰める方向から舵を切り始めた頃ではないかなと思われます。そしてその反動から生まれたのが「蜘蛛の瞳」であり翌年の「大いなる幻影」(1999)だろうと思います。この辺りの黒沢清の映画は最も彼の作家性が表れていて興味深いです。ロベール・ブレッソンの「ラルジャン」(1983)のようです。何故タイトルが「蜘蛛の瞳」なのでしょう。蜘蛛には8つ眼がありますが強引に考えれば岩松(ダンカン)のチームが四人組でそれを足して8つの目があるからとか考えましたがよく分かりません。何をやっているのかよく分からない仕事は資本主義の批判ともこの映画自体の自虐的な開き直りとも取れます。とにかく撮影にしても編集にしてもこんなん作りたいという欲望で出来上がっている作品です。ラストで白い布を取ると木偶坊が出てくるシーンがありますが非常に示唆的です。そして最後に新島(哀川翔)が向かう工事現場は「回路」(2001)の哀川翔と繋がっている気がします。この映画が虚無的とか頽廃的とか色々言い様はありますが実は誰しもが日常生活において多かれ少なかれ体験するようなある種のリアリティが下地にあってだからこそどれだけ突飛な演出をしても許せます。