アリ・アスター監督作品 ヘレディタリー/継承について

こんにちは。アリ・アスターが気に入ったので借りてみました。この人はアンドレイ・タルコフスキーが好きなのでしょうか。映像が何となく似ているのと、ミニチュアの家や次作の「ミッドサマー」(2019)のラストが「サクリファイス」(1986)っぽいなと思ったからです。ミニチュアという映像表現は映画において多義的に働きます。「サクリファイス」でもミニチュアの家が一度だけ出てきますが強烈に印象に残っています。鏡がカメラのレンズならばミニチュアは映画の撮影セットのような、映画内映画的な演出として優れたアイテムだと思います。後に起こる出来事の予兆を映像で先に撮っているのですが、それが伏線というよりは宿命のような少し強引な感じが上手いです。またこれは現代におけるフェミニズムの影響かもしれませんが、夫婦における立ち位置が普通なら逆のところを反転している気がします。どうでも良いことですがチャーリー(ミリー・シャピロ)がトリハダの笹野鈴々音と似ています。

20230325

映画監督がどんな映画を好きなのかはかなり重要だと思っていますが、アリ・アスターのオールタイム・ベストを見てみると、イングマール・ベルイマンロマン・ポランスキー溝口健二という感じでした。タルコフスキーは入ってなかったので影響を受けているのか微妙ですが、ポランスキーが好きというのは何となく感じます。この映画は最近観たからなのか中田秀夫の「女優霊」(1996)とも似ています。冒頭のミニチュアもそうですし、恐怖演出としてただ佇むだけの人間なども次作の「ミッドサマー」でも感じたのですが、少しJホラーっぽい演出がありました。序盤のミニチュアの部屋から現実の部屋にスライドする演出から分かるようにこの話は全て主人公のアニー(トニ・コレット)の想像の世界かもしれない可能性があり、中盤あたりに明らかにミニチュアの背景が現実の背景と混入されていたり、またまるで電気を点けたかのように夜から朝に変わる演出などもこの映画がミニチュアの世界であることを示しています。悪魔の存在を仄めかす展開や文字や本からヒントを得るところなどがやはりロマン・ポランスキーの「ローズマリーの赤ちゃん」(1968)を踏襲していると思います。この映画で面白いのは最終的にアニーではなく、息子のピーター(アレックス・ウルフ)に物語が収斂するところです。僕の仮説ではアニーの箱庭の世界だったはずがそれを飛び出して息子の精神世界に入ってしまったのか、分かりませんが映画という映像表現を批判的に捉えた作品であることに違いないと思います。どういうことかというとこれは昨今の映画を観ていて感じることでもありますが、映画という映像を切って貼ってモンタージュして物語を作るその行為自体が映画の中に組み込まれて話が作られているということです。だからこそ鏡やミニチュアなどの演出が活きてきます。あと単純に映像が恐いです。これがデビュー作だということが末恐ろしいアリ・アスターはこれからの活躍に期待出来そうです。