映画における鏡の効果について

こんにちは。映画を観ていて心に引っ掛かるものは人によってそれぞれ異なるとは思いますが、僕の場合鏡が出てくると何故か目が惹かれます。小難しい理屈をこねれば鏡に映る像は虚像であり、それはまさに現実を切って貼った虚構の物語である映画そのものであり、またそれは映像を映し出すカメラのレンズとも捉えられます。映画の中で鏡は登場人物の心の葛藤を表現したり隠された二面性や精神的な異常など、様々な効果があります。さらに深読みすれば鏡が映るとそこに映るはずのカメラやスタッフの存在を却って想像してしまい、勿論映り込まないように横から撮ったり、映ってもCGで消したりしますが、それは異化効果のような効果があります。とにかく鏡は映画においてあれば使いたくなる便利で多元的なアイテムです。僕が好きな使用例を挙げると、ロマン・ポランスキーの「ローズマリーの赤ちゃん」(1968)でローズマリーミア・ファロー)が貰ったデザートを鏡に向かって欲しい方?とふざけるシーン、黒沢清の「LOFT」(2005)の冒頭の春名礼子(中谷美紀)のショット、今敏の「パーフェクト・ブルー」(1997)のラストカット、スティーブン・スピルバーグの「ブリッジ・オブ・スパイ」(2015)の冒頭のルドルフ・アベルマーク・ライランス)の三面鏡のショット、エドワード・ヤンの「ヤンヤン 夏の想い出」(2000)の病院でのガラスの反射、中田秀夫「リング」(1998)の山村貞子(伊野尾理枝)の髪を梳かすシーン、小津安二郎の「風の中の牝雞」(1948)で時子(田中絹代)が身を売るかどうか逡巡するシーンのカットバック、バーベット・シュローダーの「ルームメイト」(1992)の冒頭の双子のショットなどです。鏡に映るもう一つの世界に対する漠然としたイメージは、主人公が現状に満足していないことを表しています。でも普通に考えてみると私達は普段そんなことで鏡を見たりしません。映画という世界でのみ働く効果です。