司馬遼太郎 竜馬がゆくについて

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こんにちは。まだ一巻しか読んでいないのですが、一応今の所の感想を書きます。司馬遼太郎を初めて読んだのは大学生の頃で北辰一刀流の開祖、千葉周作を描いた「北斗の人」でした。何故それを読もうと思ったのか覚えていないのですが、歴史小説自体読むのが初めてだった上に、司馬遼太郎のまるで見たかのような書き方に驚きました。歴史は史料を元に作られています。史料には一次史料と二次史料があって、簡単にいえば、当事者が肉筆で書いたものが一次史料で、それ以外が二次史料だと考えれば良いです。司馬遼太郎は作品を書く時に膨大な史料を買い集めてそれを速読して頭に入れていきます。だからこそまるで見たかのような書き方が出来るのだと思います。前置きが長くなりましたが、「竜馬がゆく」の感想を書きます。まず方言が面白いです。僕は高知県に住んでいるのですが、例えば馬鹿をべこのかあと読んだり、女蕩しをばぶれもんと読んだりします。~ぜよという土佐弁が使われていないこともよく分かっているな、と思います。一巻の内容は黒船に対する日本の対応とそれを巡って尊王攘夷の気運が高まってきた江戸で竜馬が後に活躍する攘夷志士たちと若い時分に会って縁を作っていく話です。司馬遼太郎の特徴として話の途中に現代の司馬遼太郎自身が余談、としてその時に起こった出来事を解説したり、登場人物の性格を話から逸脱して書いたりすることがよくあります。これも史料を読み込んで登場人物が自分の中にちゃんと息づいている証だと思います。読んでいて黒船来航の衝撃は日本人にとって確かに相当なものだっただろうと改めて思いました。作中に良い喩えがあったですが、自分の家にいきなりノックもせずに上がり込んだ武器を持った人間に外交を迫られたわけです。恐らく僕もこの時代に生きていたら尊王攘夷派に与していたでしょう。それ以外に考えようがないというか、少し羨ましくもあります。一巻では後年活躍する偉人たちもまだ皆20代で若いです。青春群像劇と謳っているように、皆が若さと野心を持って行動している様に同じく20代の自分を重ねて胸が熱くなります。お田鶴さまという女性が出てくるのですが、この人物は創作の人物らしいです。司馬遼太郎の作品には大体忍者が出てきます。恐らくストーリーを円滑に進めるための工夫だと思います。

2021 0820
今二巻を読み終えました。土佐、薩摩、長州の薩長土は尊王攘夷の意志を共有し、そのなかで土佐藩に愛想を尽かした竜馬は愈々脱藩し、土佐藩土佐勤王党に改造しようと目論む武市半平太と袂を分かつことになります。佐幕派吉田東洋武市半平太の謀略で暗殺されます。面白い喩え話があって、明治維新の立役者である、坂本竜馬吉田松陰西郷隆盛桂小五郎、などに共通する要素に今日でいう新聞記者のような役割があるようです。新聞やラジオましてインターネットなどない明治時代には、彼らのように各地を遊説しながら江戸や中央の動きを地方に伝播し同志を募る他無かったようです。度々出てくる土佐の特殊な階級である郷士と上士についても書いておきます。土佐は他藩にない階級があり、郷士、上士、白札などと呼ばれる階級が存在していました。坂本竜馬郷士武市半平太は白札でした。色々な差別があったようです。明治維新のことをこんなに分かりやすく且つ面白く知れて嬉しいです。高知県には民族歴史資料館が沢山あって一時期よくいっていましたが、やっぱり歴史は面白いですね。また調べたくなりました。坂本竜馬は飄々とした人柄もさることながら、腕っぷしが滅茶苦茶強かったから皆に慕われたのでしょうね。明治時代といえば今からつい200年くらい前ですが、風俗からなにから全く変わってしまって、史実というよりは伝記や伝説に近い感覚で読んでしまいます。

2021 0822
軽くインターネットで坂本竜馬について調べました。高知県では割と身近な偉人なので灯台もと暗し、知らなかったことが沢山ありました。坂本竜馬の28歳までの足取りは正確には解っていなく、多くは創作であるそうです。(尚これには異説もあり、竜馬の広い交遊関係や海援隊の生き残りの証言などから、多くは間違っていない、という見解もあるようです。歴史について調べていくと、両極の意見があってどっちが正しいのか分からなくなります。史実には深入りせず話半分に付き合うのが一番良いようです)また、田中光顕に日露戦争の戦意発揚に利用されたり、劇作家の真山青果の「坂本竜馬」という劇で民主主義のプロパガンダとして利用されたりしています。高知県で生まれた僕としては坂本竜馬の英雄像は同郷として誇らしいのですが、色々な方の意見を読むと、やっぱり話半分で史実としてではなく単純にエンターテイメントとして楽しむのが一番良いと思いました。恐らく司馬遼太郎もそれを意識して書いているのだと思います。

2021 0829
今三巻を読み終わりました。坂本竜馬勝新太郎の門人になり、神戸に軍艦の操練所、天下の攘夷といって燻っている若い人間を集めて学校を作ろうとしています。武市半平太岡田以蔵を使い天誅と称して佐幕派の人間を暗殺しています。そして後に坂本竜馬の妻になるおりょうがここで登場します。出会いが非常にロマンチックに描かれていて、何故か火事の現場に行った竜馬が着物を脱いだ時に、渡した刀を届けに来た娘がおりょうということになっています。面白かった話は幕末の時代には日本人というものが居なかったという話です。皆自分が属している団体、例えば高知県なら高知県民、会社なら会社員といった具合で身の回りの小さなコミュニティにしか属していなかったのが、坂本竜馬だけは日本の中の日本人だという意識が既に有ったという話です。これは簡単に言えば世界の中の日本、つまり国際的な感覚を日本人が初めて持ったということです。坂本竜馬明治維新の奇蹟といわれる所以はそういうことに関係しています。また攘夷志士の大半は人を殺したくて血気に逸っている者ばかりで、本当に日本を変えようとしているものは少なかったようです。

20210917
今4巻を読み終わりました。京で勤王攘夷派の粛清が始まり、新撰組や見廻組が結成されます。山内容堂の手により武市半平太切腹を賜り、岡田以蔵土佐勤王党の門人は拷問にかけられ、多くは殺されます。天下は愈々血腥くなってきます。薩摩と長州の仲もより険悪になっていき、この先の長州征伐に繋がっていきます。坂本竜馬勝海舟陸奥宗光らと共に遂に念願の軍艦を手にいれます。この巻では長州の狂気ともよべる行動が繰り返し書かれていました。それは日本が産んだ侍という何処の世界にもない独特な美意識と自律の精神をもった民族性が大きく関係しています。また絶対に避けられない死というものに対する克服として切腹がある、という話も面白かったです。