井上雄彦 バガボンドについて

f:id:okabayashisoma:20210529230047j:plainこんにちは。「バガボンド」は適当に読みたいときに読めるように手元に置いてある唯一の漫画です。というより時々読みたくなる漫画なんです。この漫画を書くとなると、自然と漫画論のようになります。元々哲学的な内容なので、武蔵の考えていることはそのままそっくり他の事象に置き換えることができます。それは、井上雄彦自身のことであったり、芸術家であったり、普通の会社員の人にも当てはまります。普遍的でとても広い受け口を持った作品です。あとは内語、と呼ばれるものが多い作品でもあります。これは後期の特徴であるので、それは後程いいましょう。この話は吉川英治の「宮本武蔵」が原作にあります。小次郎の聾唖という設定は井上雄彦のオリジナルらしいですf:id:okabayashisoma:20210529230236j:plain

僕は「バガボンド」は大きく分けて前期、中期、後期に分かれると思っています。まず前期は武蔵が吉岡清十郎吉岡伝七郎祇園藤次、胤瞬、胤栄、柳生石舟斎、宍戸梅軒らに出会い、関ケ原で敗れてから、京で名を上げていく下剋上のような話です。巻数でいえば1巻から15巻くらいのところです。戦いの場面もいわゆるバトル漫画(HUNTERxHUNTERや鉄拳チンミ)のように、武蔵の体の状態の解説などが入ります。個人的な意見ですが、この頃まではある程度それまでの漫画様式を踏襲している感じがあるんですが、中期に入ると、ペンから筆に変わり、キャラクターの内面に踏み込む精神世界の描写が増えます。巻数でいえば16巻から27巻くらいまでです。絵柄も明らかに変わります。僕は20巻くらいの小次郎と巨雲の戦いのところが一番絵柄的には好きです。読んでて、作者の熱が伝わるほど絵が成熟してきています。

f:id:okabayashisoma:20210607222448j:plain後期は武蔵が殺し合いの螺旋を降り、伊織の村で暮らします。個人的には後期が一番好きなんですが、ネット上では戦闘シーンがなく、退屈だという声もあるようですね。しかしやはりこの漫画の本質はこの後期に有るように思います。つまり、武蔵のしていることは色々いっても簡単にいえば人間の命を奪っているだけのことだいうことです。後期はそのモチーフが繰り返し登場します。それは対比として出てきます。例えば、命を奪う侍と命を生かす農民、死んで救われた今まで殺してきた敵と、生きて苦しんでいる武蔵、殺し合いはしたくないといいながら、心のどこかでそれを求めている武蔵など、たくさんあります。つまり話の推進力がストーリーではなく、武蔵の心の葛藤になったということです。武士と農民の身分の違いも明確に描かれます。それは伊織の侍になりたいという夢や、秀作と小倉からきた侍のやりとりからもわかります。

f:id:okabayashisoma:20210529230336j:plain あと内語についてこれも個人的に思うことなのですが、やはりキャラクターの内面を描くことに特化した少女漫画の技法は少年漫画に落としこんでも効果的に機能します。元々内語は少女漫画の恋愛描写において、主人公がなにを考えているのかということを読者に分かりやすく伝える為に発案されたものですが、バガボンドにおいても同じ効果で働いています。

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追記

バガボンドはまだ連載中ですが、僕は気長に待っていたいと思います。最近三浦建太郎の訃報に触れ、井上雄彦には本当に死なない程度に頑張ってほしいです。

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