髙畑勲監督作品 じゃりン子チエについて

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1981年~1983年放送
こんにちは。じゃりン子チエを初めてみたのは大学生の時でした。その頃は髙畑勲にとても傾倒していて、太陽の王子ホルス、火垂るの墓、ぽんぽこ、山田くん、おもひでぽろぽろかぐや姫の物語などの劇場監督の作品から、アルプスの少女ハイジ赤毛のアン、などのtvシリーズの作品も見始め、その一貫でじゃりン子チエに出会いました。僕は大体見終わるとネットで感想を検索するのですが、映画版の感想ばかりでtvシリーズの感想が少ないことに驚きました。感想の前に僕が気になった点について書きたいと思います。

カメラ目線
この作品の特徴として、登場人物たちが笑うときや話すときなどに、カメラの方向をむいて行動するということがあります。普通の作品ではこういう演出はあまりありません。あるとすればそれは登場人物がカメラの存在に気づいているというメタフィクションなんですが、この作品ではあくまでその人物が独り言をいっているという体になっています。文章では伝わりづらいのですが、例えばチエちゃんが、テツの粗暴な行動(主にヤクザからカツアゲすること)を客から聞いて、へなへなっと座り込んでこちらにむかい弱音を吐く、というシーンがあります。このシーンは客の発言を受けたあと、カットが代わり、店の厨房の下にカメラが移動しチエちゃんのワンショットになって、「あかん、テツの話聞くとこっちが恥じかく。」とうちわで扇ぎながらチエちゃんが弱音を吐くというシーンになります。この演出の効果として、チエちゃんがまるでこちらに話しかけているような効果があると思います。しかし、あくまでこれは独り言なので、チエちゃんと会話したということではなく、心の声を聞いたという感覚に近いのだと思います。また、笑うときにこちらを向いて笑ってくれるというのも、とても可愛らしく気に入っている所です。

現実と非現実
この作品では普通に猫が喋ったり、二本足で歩いたり(人間が見ていないところで)します。また主人公の境遇は子供がホルモン屋を切り盛りして親を食べさせているという非現実的なものです。しかし、生活感のある町並みや学校、ヤクザと警察と一般人が共生していた昭和の大阪を再現している所などは現実的です。この辺りの非現実と現実のバランスが絶妙で、時に漫画のように顔がおおきくなったり、ぼろぼろになっても次のカットで元通りになっていたりするんですが、有名な運動靴の話のような感動的な話や授業参観にテツが来てチエちゃんが泣いてしまった子供の心理に迫った話も出てきたりと、1話に様々な要素が計算された構成で展開されています。髙畑勲はリアリストなので、過剰にキャラクターに感情移入させないように現実と非現実をいい塩梅で混ぜて作っている感じだと思います。

感想
色々書きましたが、結局いいたいのはなにも考えずに見ても楽しい娯楽作品だということです。暴力的な表現も昭和の古き良き時代だなぁと少し羨ましく感じます。髙畑勲についてはまだまだ書きたいことがあるので、また後日詳しく書いてみたいと思います。

追記
俯瞰の構図がとてもキレイなアニメーションです。序盤にdrスランプのパロディがあるように鳥山明のようにキャラクターを平面的でなく立体的に捉えていることがわかります。個人的に一番感動した話はチエちゃんの作文が金賞をとった話です。髙畑勲の演出が味わえる良い話だと思います。
追記の追記
この記事を書いてから2週間くらい経ちました。今感じていることを書きます。まず声優の演技が素晴らしいです。中山千夏さんは歌手だったんですね。テツ役の西川のりおさんもハマってます。個人的にマサルくんの悪口いわないと体調が悪くなる設定は馬鹿馬鹿しいですが好きです。小学生あるあるですね。テツは、これも個人的な意見ですが、始めはおそらく子供に養ってもらっている親父という設定の面白さで出来ていたキャラクター(博打狂い、プー太郎、チエちゃんに小遣いをせびるなど)だったのが、話が進むにつれ、性格に厚みが出てくる印象があります。つまり単純な行動原理ではない行動を起こすようになったということです。まあこれはどのアニメーションにも当てはまることですが、この作品の場合は髙畑勲の演出が入っているのでその辺の描写が特に上手いです。例えば、テツはチエちゃんに看病してもらったときに打ち上げ花火を部屋に入れられ、入れた奴をどつくと激怒します。打ち上げ花火を入れたのはチエちゃんですが、テツに聞かれた時にはシラを切ります。しかしお好み焼き屋のおっちゃんとカルメラ焼きの二人組はテツに聞かれ、白状してしまいました。しかしテツはチエちゃんに対して何も行動を起こしていません。これは忘れていた訳ではありません。つまり分かっていて、見逃しているのです。文章で見ると普通のことですが、テツの行動にしては複雑な心理が働いています。アニメーションで見るともっと分かりやすいです。ヨシエさんとの関係も話が進むとだんだんわかってきます。テツの歪んだというか屈折している愛情は、ヨシエに一度家出をされたからというのが原因なんですね。テツが時々みる夢のテイストはおそらくつげ義春だと思います。原作者のはるき悦巳さんと髙畑勲が最も感情移入しているのは花井拳骨というテツの先生だと思います。彼は賞をもらうほどの偉い研究者なのですが、彼の描き方が面白いです。チエちゃんはなぜ偉い研究者である先生がテツをからかうのか疑問に思っています。この答えは賞をもらい母校の大学に講演に行くエピソードでよくわかります。帰り道に遅くなった理由をテツに聞かれ先生は酒を飲んでいたと答えます。テツがからかうと先生は「あんな酒のどこが上手い」と怒ります。このシーンのあと相撲をとって話は終わるのですが、つまり上辺の付き合いでする話ではなく、本当に心で話せるテツが好きだというシーンです。この話は李白の漢文の引用が出てきたり、なにかと意味深な話でした。やはりものを作る人間はこういうキャラクターに感情移入してしまうのでしょうね。またチエちゃんからみるとただのテツをからかってばかりいるおじさんですが、本当はわざと冗談をいって、チエちゃんと同じ目線にたってあげている、ということも分かります。これは僕が大人になったから感じることで、多分こどもの時に観ていたらチエちゃんの方に感情移入していると思います。そういう意味で作者もチエちゃんに対して一定の距離をもってみていることもわかります。今DVDboxの6巻まで観ましたが、やはりなんといってもキャラクターがかわいいです。特徴的な歩き方、ズッコケ、カメラ目線の笑顔、チエちゃんのすこしませた感じも、とても癒されます。テツはわざとチエちゃんに殴られたり怒られたりするようにしているようにもみえます。あとヒラメちゃんもいいキャラクターですね。相撲の話も感動したし、写生の話のラスト、描いた絵に現実の背景がオーバーラップして、鳥が飛んでいくシーン。もちろん現実といっても両方セルなのですが、こういう演出をみると、胸が熱くなります。子どもむけのアニメーションを大人が本気出して作っていることがよくわかります。

最後に
今、この記事を書いてから1ヶ月くらい経ちました。最終回まで観た感想を書きます。チエちゃんの一挙手一投足がとにかく可愛いです。制作陣も回を重ねるにつれ、どんどんキャラクターに愛着を感じているのがよく分かります。本当に何度も観たくなる作品です。高畑勲の最高傑作といっている人がいましたが、それも頷ける出来だと思います。